一杯のコーヒーで行ける昭和の博物館。難波里奈さんに聞く、純喫茶の楽しみ方
その熱がとどまる所を知らないレトロブーム。SNSなどでも大正ロマン・昭和レトロ・平成レトロ……などさまざまな時代のカルチャーを楽しむ人が多く見られます。中でも、古き良き時代の香りを実際に体感できる「喫茶店」は、レトロブームを牽引する存在ともいえるでしょう。
今回は、東京喫茶店研究所2代目所長として喫茶店をこよなく愛する難波里奈さんに特別インタビュー。喫茶店の魅力や楽しみ方、喫茶店ならではの軽食メニューなどについて語っていただきました。
喫茶店は周りを気にせずくつろげる、“理想の部屋”のような場所
——難波さんはもともとレトロなものが好きで、喫茶店にも通うようになられたとか。
難波さん そうなんです。今日も古着を着ていますが、家にもレトロな食器や家具がたくさんあります。私が喫茶店に通うようになったのは、学生の頃から。その年頃は、つい周りの目を意識してしまいがちでした。なので、同年代の子がたくさんいるカフェでは、そわそわしてしまって落ち着いて過ごすことができなかったんです。それが喫茶店に行ってみると、当時は自分ほど若い人もおらず、最初こそ不思議な目で見られますが、入ってさえしまえば誰も干渉してこない。まるで自分の部屋にいるように、好きに時間を過ごせる心地良さがありました。
——いつも喫茶店のどんなところを楽しんでいるんですか?
難波さん その当時にしか建てられない豪華な建築にうっとりします。建材もデザインも細部まで凝っていて、今の時代に同じようなお店を作ったら一体いくらかかるのか想像もつきません。そんな贅沢な空間に、マスターこだわりの音楽が流れていて、食器や家具もまた美しい。一杯のコーヒーでこんなにたくさんのお楽しみがあるなんて、サービスの頂点だと思うんです。喫茶店を100件巡っても、100件すべてに違う魅力があるので、永遠に飽きないですよね。
——レトロブーム全般に言えますが、当時を過ごしていなかった世代も「懐かしい」と感じるのは不思議ですよね。
難波さん その時代を過ごしたことがない世代も「懐かしい」と感じるのは、映画やドラマなど、どこかで見たイメージが想起されるからではないかと思います。私はよく喫茶店のことを「一杯のコーヒーで行ける、昭和の博物館」と言うこともあります! 最近はシンプルで合理的なデザインがトレンドですが、昭和の食器や家具は色も多く柄もさまざまで、目を楽しませてくれますよね。
喫茶店は非日常ではなく、日常の延長線上にあるもの
——難波さんのブログ「純喫茶コレクション」は2008年から始められたんですよね?
難波さん たくさんの喫茶店に通ううちに、自分のための記録帳を作っておこうと思い、ブログに残すことにしました。当初は誰に見せるわけでもないのに、月に80投稿くらい更新していましたね。
——喫茶店には毎週末行くのでしょうか?
難波さん はい。平日もだいたい1、2軒、週末は3〜5件くらい巡ります。旅先では、せっかくなのでなるべくいろいろなお店に行っておきたく、1日で10件以上回ることもありますね(笑)。都内にいる時は、散歩や用事のついでに寄れるお店に行きます。あくまで私は、喫茶店は日常の延長線上にあるものだと考えています。だから「今日は窓があるところがいいな」とか「サンドイッチが食べたいからここかな」とか、その日の気分と現在地を照らし合わせて、行くお店を決めているんです。
——難波さんが喫茶店に行く時のルールはありますか?
難波さん 当たり前かもしれませんが、お店の人や周りのお客さん皆が気持ちよく過ごせるよう心がけています。例えば、コーヒーや店内の写真を撮る時は、必ずお店の方に「撮影してもいいですか?」と一言声をかけています。私はお店や店主たちが好きだからこそ、そのお店にふさわしい自分でありたいですね。
——他に、喫茶店でしか味わえない体験にはどんなことがありますか?
難波さん 通う度に、お店の方たちとの関係性が育まれていく点ですね。最初はあまりお話しすることはないのですが、何回か訪れて面識ができると、自然と会話が生まれます。すると「こんなに面白い人だったのか」という発見があって面白いです。「今日はここのマスターとおしゃべりしたいから、このお店に行こう」と考えて喫茶店を選ぶ日もありますよ。
喫茶店ならではのスパゲッティは、お昼どきの忙しさから生まれた!
——喫茶店というと、軽食メニューも魅力の一つですよね。
難波さん カレーやピラフなどが名物というお店も多いですよね。他にもサンドイッチやケーキなど、新聞や本を片手に楽しめるメニューがよく見られます。昔は、お昼休憩の時間にお客さんがサッと食べられるように、喫茶店がまるでファーストフード店のような役割を果たしていました。かつてレストランの洋食ブームを参考に、料理へこだわる喫茶店が増えたようです。中には、カレーの専門店のように、10種類以上のスパイスを独自で調合している喫茶店もあるんですよ。
——最近では喫茶店のナポリタンも人気ですね。
難波さん そうですね。喫茶店のスパゲッティといえばナポリタンにミートソース、たらこやシーフードクリーム系を出すお店もありますね。なかでも私はミートソースが好きでよく食べます。
——イタリアンレストランのアルデンテなパスタの味わいとは違う美味しさがあります。
難波さん 喫茶店のスパゲッティは、もちもちとした食感の麺がおいしいですよね。あれは昭和の喫茶店全盛期、お昼どきでとにかく忙しいお店を回すために、事前に大量の麺を茹でてサラダ油をまぶし、一晩寝かせておいたからだそうです。茹でおきしていれば、炒めてソースをかけてすぐ提供できます。お昼の忙しさが、いまや喫茶店の代名詞であるスパゲッティを生み出すきっかけになったのです。
——この冬、名店の味を忠実に再現した「純喫茶のスパゲッティソース」が2月5日よりエスビー食品から発売されました。難波さんは喫茶店のスパゲッティにまつわる思い出はありますか?
難波さん ミートソースが大好きな喫茶店があったのですが、閉店してしまいショックを受けていました。嘆いていた時にちょうど出会ったのが「ルーブル」のミートソース。今度こそ私の人生のミートソースを見つけた! と喜んでいたのですが、なんとルーブルも閉店。なのでそんなタイミングだったので今回エスビー食品がルーブル監修のミートソースを出してくれたことが発売すると知り、本当にうれしいんです。
——ありがとうございます。せっかくなので「純喫茶のスパゲッティソース 幻のミートソース」の味の感想を聞いていいですか?
難波さん とっても再現度が高かったです。ルーブルのマダムも「100点満点!」と太鼓判を押されていました。ルーブル特有のちょっと甘めなお肉で、きっとお子さんも好きな味わい。マダムいわく、よりお店の味に近づけたい方は、茹でたパスタをサラダ油小さじ1で炒めているところに白ワイン小さじ1杯を加えるといいそうですよ。
——さぼうる監修の「名物ナポリタン」の方はいかがでしたか?
難波さん こちらも、ケチャップたっぷりの「さぼうるのナポリタン」の味わいが見事に再現されていました。ベーコンの切り方までお店と全く同じ、というこだわりようにびっくり。ミートソースもナポリタンも、一から作ると結構手間がかかるので、レンジでチンするだけでお店の味が楽しめるのはうれしいし、お店をリスペクトして一緒に商品開発されたことも素晴らしいと思います。これを食べた後は、ぜひ実際の店舗にも足を運んでみてほしいです。
——「お家喫茶」をさらに堪能するためには、どんな工夫をするとよいでしょう?
難波さん そうですね。レトロなテーブルクロスを敷いてみたり、白いナプキンを三角折りしたりすると、グッと喫茶店の雰囲気に近づきますよ。もし時間に余裕があれば、クリームソーダやミックスジュースを作って添えるのもいいですね。
私自身はエスビー食品さんの赤缶カレー粉が、缶のデザインもレトロでお気に入り。他にも、シナモンをトーストにかけたり、ホットミルクに入れたりして、お家喫茶気分で楽しんでいます。中華スパイスを使ってルーロー飯を作ることもありますよ。
——これからも難波さんの喫茶店巡りは続きますか?
難波さん もちろん、一生涯通い続けたいです。そのためにも喫茶店の皆さまにはお元気で営業し続けてもらえたら、と願います。読者の方々も、ぜひ自分の住んでいる街にある喫茶店の扉を開いてみてください。長く続いているお店にはきっと理由があります。行けばその魅力に気づくはずです。
文:井上麻子 / 撮影:Ryo Yoshiya
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