創業100周年。「赤缶」の歴史から考える、エスビー食品とカレーのこれから
1月22日は「カレーの日」。
そこで今回は、2023年に創業100周年を迎えたエスビー食品のロングセラー商品「赤缶カレー粉」の、これまでの歩みを振り返ってみます。
なんと言っても「赤缶」の前身は日本初の国産カレー粉ですから、「赤缶」の歴史を知ることは、日本の「おうちカレー」の歴史を振り返ることでもあるのです。
そして、次の100年を見据え、カレーのこれからについても、じっくり考えてみたいと思います。
取材を担当くださるのは、マーケティング企画室の長坂さんと広報・IR室の小泉さん。お二人にたっぷりとお話を伺います。
“鼻”を頼りに生まれた、日本初の「国産カレー粉」
——1923年(大正12年)の創業から、100年を迎えたエスビー食品。その歴史は、「日本初の国産カレー粉」の誕生とともに始まったそうですが、「日本初の国産カレー粉」はどのように生まれたのでしょうか?
小泉:生みの親は、エスビー食品グループの創業者である山崎峯次郎です。峯次郎は、17歳で上京し、業務用ソースを洋食屋に売り歩く仕事に就いていました。その頃に、飲食店で初めて食べたカレーライスのおいしさに大きな衝撃を受けて、自らの手でカレーライスの基本になるカレー粉を製造することを決意したと言われています。
長坂:当時は、外国製のカレー粉が一般的で、そのレシピはまったく知られていなかったそうです。
小泉:ですから峯次郎は、カレー粉を構成する原料を「鼻」を使って嗅ぎ分け、一つひとつ解き明かしていったんだそうですよ。それらの調合を繰り返す日々を経て、「焙煎」「熟成」といった工程も独自に突き止めたんだとか。そして、試行錯誤の結果、1923年に日本初の国産カレー粉の製造に成功しました。
長坂:そうして発売したのが、業務用の1ポンド缶です。まずは、飲食店向けとして提供を開始したんですね。その後1930年に、日本で初めての家庭用瓶入りカレー粉「ヒドリ印カレー粉」を発売するに至りました。
——最初は、創業者の探究心から生まれたものだったのですね。「赤缶カレー粉」は、いつ誕生したのでしょうか?
小泉:1933年には「赤缶カレー粉」の前身となる「白缶カレー粉」を発売しました。業務用・サイズを変えた家庭用ともに販売されていましたが、当時は戦時中で、思うように原料が集まらず、峯次郎にとって納得のいく商品にならなかったと言われています。そこで、さらなる品質の向上を追い求め、1950年、創業以来培ってきたノウハウの集大成として満を持して発売したのが、「赤缶カレー粉」というわけです。
長坂:その頃の「日本のカレー文化」というと、1940年代の戦時中には軍用食として定着しはじめ、その味を兵士たちが家族に伝えることで家庭にも広まっていったといわれています。戦後になると、学校給食としてもカレーライスが提供されるようになりました。徐々にカレーが「みんなに愛される食べもの」になっていったんですね。
——70年以上前に発売された「赤缶カレー粉」が、現在も変わらないのはどうしてですか?
小泉:集大成として、厳選されたスパイスを配合した、ベストなものだからです。味が変わってしまえば、日本全国の飲食店の「カレー味」が変わってしまうと考えているので、調合を変えることはありませんでした。
ただし、プロモーションやお客さまへのご提案方法は常に時代のニーズに合わせて、積極的に新しい手法を採用してきた歴史があるんです。現在では主流となっているような、懸賞付きレシピコンテストやカレー料理本の発刊、キッチンカーによるPRなども当社では早くから取り入れてきました。
長坂:現在でも、レシピ開発チームや商品企画、営業などの部署で協力をしながら、商品を使ったレシピや使用方法の提案などに力を入れています。
多様化し続ける、カレーの今
——100年の歴史のなかで「カレー文化」は変わってきましたか?
小泉:やはり家庭用の「カレー粉」が誕生したこと、そして「カレールウ(即席カレー)」の誕生が、大きな変化として挙げられると思います。
長坂:「赤缶カレー粉」が代表するカレー粉とはスパイスのミックスです。小麦粉などと混ぜてカレーを作るだけでなく、料理に加えて風味を出したり「カレー味」を再現したりするときに使います。一方、カレールウは即席でカレーを作るために生まれたもの。あらかじめ小麦粉や油脂、うま味を出す調味料、スパイスなどが調合されて固形になっています。
小泉:戦後、一般家庭においてカレーライスが広まるなかで、カレー業界各社は競って、このカレールウを発売するようになりました。カレー粉に続き、当社も開発に取り組みましたが、小麦粉の品質に納得できず、途中で生産をストップ。納得できる品質の小麦粉が手に入り、エスビー食品が即席カレーを発売したのは、開発から3年目の1954年でした。
他社より後発に甘んじても“美味求真”、おいしさに対して限りなき探求を続けることが、創業者のゆるぎない理念だったんです。
——カレールウが普及しても、カレー粉の人気が衰えることはなかったのでしょうか?
長坂:役割が異なりますし、おもしろいものでカレールウを使って作ったカレーに、仕上げとして「赤缶カレー粉を加える」なんてことは、家庭でもよく行われています。そうすることで、よりスパイシーになると好評なんですよ。
小泉:近年では、カレー粉からスパイスカレーを作るのもトレンド。特にコロナ禍によるおうち時間の増加でさらにそれが浸透しました。カレー粉の他に、クミンやターメリック、コリアンダーなど、カレーの基本となるスパイスの売れ行きも大きく伸長したんですよ。レシピ本もたくさん出版され、熱は継続されている印象です。
長坂:そして、手作りカレーのトレンドが加熱する一方で、手軽に食べることができるレトルトカレーもまたすごくおいしくなっていますよね。どれも同じカレーですが、それぞれに進化を続け、今、カレーの楽しみ方の幅は大きく広がっているんだと思います。
創業100周年を記念して「S&B 赤缶カレーパウダールウ」発売決定!
——そして2023年、エスビー食品の「カレー」の歴史にまた新たな1ページが加わろうとしていますね。創業100周年記念商品「S&B 赤缶カレーパウダールウ」が2月6日から店頭販売されますが、これはどのような商品でしょうか?
小泉:エスビー食品100周年に向けて、約2年前に「記念商品」の案を社内公募で募ったんです。その際に集まった865件もの案の中から、商品化が決定し今回発売されるのが、この「S&B 赤缶カレーパウダールウ」です。
長坂:エスビー食品を象徴する商品である「赤缶カレー粉」と、「本挽きカレー」などにも使われている新しいルウの形状「パウダールウ」を掛け合わせたもので、おうちカレーの新たなスタンダードを提案する商品となっています。当社が伝統として大切にしてきた「赤缶カレー粉」を使用した商品展開は、実はこれが初めて。約2年をかけて丁寧に開発を進めてきました。
——「パウダールウ」には、どういった特徴があるのでしょう?
長坂:弊社が特許を取得しているパウダールウ製法によって、固形ではなくパウダー状のルウになっています。ちゃんととろみが出て、粉だから溶けやすい。固形と違って使用量の自由度も高いので、2皿分から作っていただくことができるのも特徴です。さらに、油脂を控え目にしているので、重たさがなく軽やかで、かつ使った鍋やお皿に油残りが少なく洗い物もしやすいんです。
——「S&B 赤缶カレーパウダールウ」の1番の魅力はどんなところですか?
長坂:やはり、「赤缶カレー粉」ならではの香り立ちの良さではないでしょうか。単品のスパイスをミックスして作ったスパイスカレーは、少々角の立った風味になることが多いのですが、「赤缶」はまとまりのあるいい香りが特徴です。スパイシーながら、家庭のカレーならではの懐かしさや安心感を持っていただける商品だと思います。
原料は、赤缶カレー粉を中心として、味わいを構成する主原料に国産素材をこだわって使用しています。小麦粉を使わないことで、より赤缶カレー粉の香り立ちの良い味わいが完成しました。香料・甘味料を使っていない、というところもポイントです。
「赤缶」定番の香り立ちを大事にしながら、「これまでにないカレー」を生み出す、というところにいちばん苦労しましたが、結果、「これしかない!」という商品が完成したと思っています。まずは、パッケージのレシピ通りにカレーを作って味わっていただきたいですね。
これまでの100年を経て、次の100年も一緒に
——時代のニーズに合わせて多様なカレーを生み出してきたエスビー食品さんですが、今後、どのようなカレーを提案していきたいですか?
長坂:少子高齢化や世帯構成の変化など、お客さまの生活環境も大きく変わってきました。大鍋でカレーをたくさん作って、たくさんの人に振る舞う……といったシーンも減ってきています。パウダールウをはじめ、「使いきれない」「食べきれない」というお声にも対応していきたいと思いますし、またレシピや使用法も幅広く提案していきたいと思います。
一方で、カレーの楽しみ方の幅はこれからもどんどん広がっていくはず。じっくり手作りを楽しむものも、サッと調理できるものも、おいしく健康的で安全・安心な商品を提案していきたいですね。
——最後に、これからの100年をどのように見据えているか教えてください。
小泉:創業からこれまでの100年は、本当においしいものを皆さんに食べていただくということを第一に事業を行ってきましたが、この先の100年はおいしさだけでなく、環境への配慮や食の多様化などにも柔軟に対応して、プラスアルファの価値を届けていきたいと思います。
我々が取り扱っている香辛料は、すべて自然からできているもの。「赤缶カレー粉」にも、世界中の何十種類という香辛料が使われていて、一つでも欠けてしまうと、成り立たなくなってしまうものなんです。そのためには、地球全体が健康でないといけません。未来の人々のしあわせのために、より一層広い視野を持って、事業に取り組んでいきたいと思います。
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これまでの100年、
私たちはスパイス&ハーブの可能性を追求し、
食卓に自然としあわせをお届けしてきました。
過去と未来を結ぶ想いを「&」に込めて
これからの100年も、
おいしく、健やかで、明るい未来をカタチにしていきます。
文:中前結花/撮影:大崎あゆみ
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