「ヘンドリクス」それは、音楽のように楽しめるカレー。砕ける食感と香り、リズムを刻むスパイスの魅力
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「ヘンドリクス」それは、音楽のように楽しめるカレー。砕ける食感と香り、リズムを刻むスパイスの魅力

#スパイスとわたし 」は、スパイスを愛する方に、スパイスの魅力について語っていただく、連載企画です。 スパイスの楽しみ方は十人十色。みなさんが感じるスパイス料理の楽しさをぜひ教えてください!  今回は、神宮前にあるインド料理屋、ヘンドリクスの若林さんのもとへ伺いました。聞き手は、阿部光平さんです。


音楽とカレー。

一見、何の共通点もないように思える両者ですが、『CURRY BAR HENDRIX』のオーナーである若林剛史さんのお話を聞いているうちに、重なる部分がはっきりと見えてきました。

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創作にはインスピレーションが大切で、その源泉には作り手の個性やバックボーンが色濃く感じられます。

長くバンドをやってきた若林さんが作るカレーには、既存の枠に囚われないギタープレイで世界を魅了したジミ・ヘンドリクスに通じる〝自由な発想〟がありました。

音楽のように楽しめるカレーを作り続けている若林さんに、そのベースとなるスパイスの魅力について伺ってきました。

登場する人:若林剛史(わかばやしたけし)
『CURRY BAR HENDRIX』オーナー。東京都出身。スパイスの妙技で食材の魅力を引き立て、やみつきになるファンが続出。スパイシーさと旨味が融合したカレーは、マニアの間でも特筆されている。伝説のギタリスト「ジミ・ヘンドリクス」に由来した店名からもうかがえるとおり、音楽とカレーに造詣が深い。著書に、『まるで魔法なスパイスカレー』がある。Instagram:@hendrix93_official

〝たまたま〟が重なって生まれたヘンドリクスのスタイル

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——先日発売されたレシピ本『まるで魔法なスパイスカレー』にも書かれていましたが、若林さんはもともとデザイン学校に通いながらバンドをされていたそうですね。その頃に飲食店でアルバイトを始めたのが、スパイスとの出会いだったと。

若林 そうですね。10代の頃にアルバイトで入ったのが、この近くにある洋風居酒屋だったんです。最初は一緒にバンドをやってたメンバーがバイトをしてて、友達の溜まり場みたいな感じになってたんですよね。いつも誰かしら友達が働いたので、「じゃあ、俺も」って感じでバイトを始めたのがきっかけでした。

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——そのお店ではカレーを出してたんですか?

若林 いや、カレーはやってなくて、手作りピザとかを出す店だったんです。だけど、そこのマスターが2号店みたいな感じでカレー屋をやることになって。それでできたのが、「CURRY BAR HENDRIX(以下、ヘンドリクス)」なんですよね。

——マスターは、カレー屋さんでの修行経験もある方だったんですか?

若林 いや、修行経験はなかったです(笑)。マスターは脱サラして店を出してたんですけど、けっこう大胆な人で。新宿の地下街にあるイタリアンレストランで働いてたときに、同じフロアにインド料理屋さんがあって、そこの人たちと仲がよかったらしいんですよね。

で、そこから独立したインド料理のシェフにカレーを習って、自分のレシピを作ったんです。そのカレーレシピが今でもヘンドリクスのベースになっています。

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——ヘンドリクスのオープンから、若林さんがお店を任されて独立するまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

若林 僕が本店でアルバイトを始めたのが19歳の頃で、それから3年後にヘンドリクスができたんですよ。オープンが1993年だから、28年前ですね。

当時はスタッフも少なかったので、今日は本店、明日はヘンドリクスみたいな感じで、マスターも僕も行ったり来たりしてました。だけど、そのうちに本店の常連さんから「今日はマスターいないの?」って聞かれることが増えて。本店にはマスターに会いに来てるようなお客さんもいたから、これはよくないねってことで、僕がヘンドリクスのほうを任されるようになったんです。

——その頃はもうデザイン学校を卒業されてたんですか?

若林 そうですね。ちょうど同世代でバイトしてた人たちも就職していくタイミングで、僕だけが残ってたんです。だから、自然と僕が店を任されることになりました。

僕がやってることって、基本的にたまたまなんですよね(笑)。本当にもう流されるままなんで。レシピ本を出したのも、たまたま声をかけられたのがきっかけでしたから。

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▲お店のロゴは、専門学校でグラフィックデザインを勉強していた若林さんが作ったもの

——デザイン学校に通ってて、バンドもしてて、飲食店でアルバイトもしているとなると、進路としてはいろんな選択肢があったと思うのですが、そのあたりはどのように考えていたんですか?

若林 1番憧れてたのはプロのミュージシャンだったんですけど、それが難しいっていうのは薄々気づいてて。だから、「いつかは自分の好きなものに囲まれた箱が欲しいな」って思ってました。そういう場所で何かを生み出すことを仕事にしたいなって。

——自分の場を持って、そこで何かを生み出すような仕事がしたいと。

若林 そうです、そうです。音楽も好きだし、お酒も好きだったから、飲み屋さんをやりたいって気持ちはあったんですよ。そういうタイミングで店を任されたので、バンドは続けてたんですけど、やってみようかなって。マスターが割と自由にやらせてくれたので、居心地もよかったし、店に立つのも楽しかったですね。

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▲「朝起きて寝るまで、音楽はずーっと聴いてますね」。お店にも若林さんの生活にも音楽は欠かせない

若林 ただ、最初は全然うまくいかなくて、ずーっと暇でした。10年くらいは赤字で、本店の売上で補填してもらってるような状態だったんですよ。

——そこから、どのようにテコ入れをしていったんですか?

若林 一念発起して何かを変えたわけではないんですけど、バンドが解散して、自分の食い扶持がヘンドリクスしかなくなったので、本腰入れて頑張らなきゃなとは思ってました。

そこで、新しいメニューを作ることにしたんです。もともとヘンドリクスには3種類のカレーしかなかったので、おつまみ系で他の店にはないようなメニューを作ろうと思って。そういうことを考えるのは割と好きだったんですよね。

——具体的には、どんなメニューを作られたのでしょうか?

若林 そんなに手の込んだものじゃないんですけど、しめサバをカルパッチョで出したり、メンチカツをマトンの挽肉で作ったり、ちょっとひねりのあるメニューを出してました。そういうのを面白がってくれるお客さんが、ちょっとずつ増えていった感じですね。

だから、今はカレーの他にもいろんなおつまみを出してるんですけど、最初からそういうコンセプトの店だったわけじゃなくて、たまたまの流れで今みたいな形になってるんですよね(笑)。

「Aメロ、Bメロがあって、サビがくる」カレーを作る上で大事にしているリズム感

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——カレーを作るときに、若林さんが意識されていることがあれば教えてください。

若林 自分が音楽をやっていたのもあって、バランスやリズム感はけっこう気にしてますね。カレーが単調な仕上がりにならないように、よく中挽きのスパイスを使ってます。

——中挽きのスパイスって、どんな特徴があるんですか?

若林 スパイスを使ったカレーって、最初にホールスパイスを油に入れてテンパリングして、その後に具材を炒めて、最後にパウダースパイスを入れるという作り方が一般的なんです。ホールスパイスには全体をやんわりと香りで包む効果があって、パウダースパイスは全体の風味を馴染ませてくれます。

これに対して、中挽きのスパイスは「全体を支配せず、一口ごとに違った食感や香りを生み出せる」という特徴があるんです。全体が同じ味になるのではなく、食べるところによってスパイスの砕け方が変わってくるので、食べているときのリズムが単調にならないんですよね。

——はぁー、なるほど! それはまさに音楽的な発想ですね。

若林 Aメロがあって、Bメロがあって、サビがくるみたいな。そうやって一曲の中に起床転結があるような感じのカレーを作りたいと思ってます。

いろんな料理が小皿に分けられて出てくるターリーは、食べる人が自由にメリハリをつければいいじゃないですか。でも、うちの場合は一皿に盛って提供するカレーなので、そのなかでバランスやリズムを作っていく必要があるんですよね。

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——スパイスでリズム感を出すという発想は、どうやって生まれたんですか?

若林 カレーを作ってるときに「この順番でスパイスを入れるのは何の意味があるんだろう」とか、「ホールやパウダーである必要性」みたいなことを考えてて、もっと違うスパイスの使い方もあるんじゃないかなって思ったんですよね。それでテンパリングに使うホールスパイスの半分を中挽きにしてみたり、具材を炒めるときに中挽きスパイスを入れてみたりって作り方をしてみました。

インド人シェフの方には、「そういうスパイスの使い方はしない」って言われましたけど(笑)。

——インドにはないスパイスの使い方だったんですね(笑)。

若林 でも、美味しいから、それでいいかなと思ってます。僕はインド料理店でカレーの修行をしてきたわけじゃないので、強みがあるとしたら〝発想の自由さ〟みたいなところかなと思ってて。カレーを上手に作るコツや知識よりも、食感とかリズム感みたいに、他の人があまり気にしてない部分を考えるのが好きなんですよね。

王道には興味がなくて、ずっと裏道を歩いて行きたいんです。そうやって「こっちもいいでしょ?」っていうカレーを作ることに喜びを感じてます(笑)。

——さっきの音楽的って話にも繋がりますけど、若林さんはカレーに対しても〝表現〟という意識を持たれてますか?

若林 あります、あります。「こういうカレーを作ったら絶対にウケるだろうな」っていうレシピがあっても、それは別に自分がやらなくてもいいやって思っちゃいますね。それよりも、せっかく自分の好きなことができる店があるんだから、作りたいものを作ろうって。

スパイスは味の外側を彩ってくれる調味料

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——若林さんはレシピ本でもたくさんのスパイス料理を紹介されていますが、新しいメニューってどういうふうに考えてるんですか?

若林 だいたい2パターンあって、ひとつは気になってる食材を買ってみて、それにどんなスパイスを組み合わせるか考えるって流れですね。ただ、あんまり実験みたいなことはしなくて、「この食材とスパイスの組み合わせはいけそうだな」ってイメージが湧いたら、そのまま作ります。

パッとイメージが浮かぶものは大抵うまくいくんですけど、考えすぎて着地点を見失うとダメなんですよ。だから、思いついた瞬間にほとんど完成してるって感じですね。

——すごい! もうひとつは、どんなパターンなのでしょう?

若林 料理をしてる人はみなさんやられてると思うんですけど、外で料理を食べたときに「自分だったら、どんなアレンジをするかな」っていうのを考えるパターンですね。「この料理には、このスパイスが合いそうだな」って。

——本のなかにも「インド人のつもりで、肉じゃが風の炒め煮を作るとしたら」とか、「北海道のちゃんちゃん焼きからインスピレーションを受けたカレー」とかありましたもんね。

若林 まさに、そんな感じで考えてますね。

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——若林さんが思うスパイスの面白さって、どういうところですか?

若林 料理を始めた頃は全然わかってなくて、十数年はそのままの状態で店をやってたんですよね。ただ決まったレシピを作り続けるって感じで。

でも、続けているうちにスパイスに興味を持つようになって、料理全体ではなくスパイスを単体で見るようになりました。そうやってスパイスの個性がわかってくると、今度は「この料理には、このスパイスが合いそうだな」って思うようになってくるんですよ。そうなってからは、使うのも面白くなってきましたね。

——まず理解があって、面白さはその先にあったと。

若林 そうですね。味の基本って、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5種類じゃないですか。でも、スパイスはその外側にあって、味付けができた料理に香りや食感という要素を付け加えることができる調味料だと思うんですよね。

——表現の幅を増やすことができるアイテムなんですね。

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若林 だから、まずは中心となる味の完成度が大事なんですよ。そこが完璧であれば、はっきり言ってスパイスは必要ありません。例えば、魚の刺身にスパイスはいらないじゃないですか。

でも、スパイスは、もうひとつ外側の領域を作れるんですよね。完成した料理にプラスαの要素を入れられるんです。だから、刺身にスパイスを加えるって使い方もできるんですよ。

——はぁー、外側の領域を作るって考え方は面白いですね! つまり、どんな料理にでも使いようがあるってことなんですね。

若林 使ってもいいし、使わなくてもいい。1種類だけ使ってもいいし、2種類を合わせてもいい。そういう素材だと思ってます。

だから、日本の家庭ではまだまだ馴染みがないですけど、スパイスがもっと当たり前の存在になっていけば、料理の幅は広がっていくんじゃないかなって。少なくとも僕が料理を始めた頃よりも今のほうが身近な存在になってるので、これからはスパイスを自然に使いこなせる人が増えていくと思います。

——若林さんご自身も、まだまだスパイスには追及の余地があると感じていますか?

若林 それはもう尽きないですね。まずたくさんの種類があること自体が面白いですし、それを油に入れたり、空炒りにしたりというように、調理法や温度によっても引き出せる個性が変わりますから。こだわればこだわるほど面白さが広がっていく素材だなと思ってます。

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——ちなみに、今日作っていただくスパイス料理は、どんなメニューなのでしょうか?

若林 スパイスを使ったおつまみを作ろうかなと思ってます。納豆にスパイスを混ぜて、表面をカリッと焼いたものなんですけど。

——納豆を焼いたスパイスおつまみ! 全然想像がつかなくて楽しみです。では、よろしくお願いします!

和食に合う、スパイスふりかけ「ごまクミン塩」とそれを使ったおつまみ一品

今回は、若林さんのレシピ本『まるで魔法なスパイスカレー』にも掲載されている、オリジナルのスパイスふりかけ「ごまクミン塩」の作り方を紹介いただきました。

ごまクミン塩を使った、ここだけのおつまみレシピも紹介します。ぜひお試しください!

「ごまクミン塩」

【材料】(作りやすい分量)

A 白ごま 10g
A クミンシード 10g
A 塩 10g
A 削り節 10g
A きび糖 10g

B 七味唐辛子 5g
B 山椒粉 2.5g

【作り方】

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Aをミル(※)などでパウダーにし、Bを加えて混ぜ合わせる。

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(※)ミルがない場合は、「白ごま→すりごま」「クミンシード→クミンパウダー」「削り節→削り粉」にそれぞれ代用し、そのままBと混ぜる。

すぐに使わない分は、清潔な密閉袋や容器に入れ、冷蔵庫で保存する。

ごまや鰹節など和食材をスパイスと合わせることで、毎日の食卓に馴染む、扱いやすいミックススパイスの出来上がり!

一度作っておけば、冷蔵庫で約三ヶ月保存可能です。

・おひたしや冷奴、炒めものにぱらぱらっとかけて
・天ぷら塩のように揚げ物に添えて
・ゴーヤなど夏野菜の塩もみに使うお塩代わりに

さまざまな用途で活用できます。ふわっとスパイスが香り、新しい味わいながらもまとまりを見せてくれる、そんな便利な調味料です。

「ごまクミン塩の納豆焼き」

【材料】(2枚分)

ひきわり納豆 1パック
ごまクミン塩 小さじ1
粉チーズ 小さじ1/2
片栗粉 小さじ1/2
水 小さじ1/2

【作り方】
材料をすべてボウルに入れ、混ぜ合わせ、スプーンやヘラなどで2つに分ける。

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サラダ油小さじ1/2(分量外)をフライパンに熱し、両面をカリッと焼き色がつくまで焼く。

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皿に移し、お好みで青のりをふったらできあがり!

今回はそのまま焼いていますが、海苔で挟んで焼いたり、天ぷらのように衣をつけて油で揚げても。

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こんがり焼いた納豆のほくほくした食感と香ばしさ。舌の上でじっくり味わうと、ほんのりとクミンや鰹節などの香りも感じられます。

思わず、「これって何が入っていると思う?」とお皿を囲んで会話したくなる、そんな楽しい一品です。

箸でちびちびと口に運んで、冷たいビールをぐびっ! がおすすめ。ぜひお試しください!


取材・文:阿部光平/撮影:小池大介/編集:エスビー食品note 

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こしょうの辛みとほのかに甘く爽快な香りは、カレーや炒め物に。
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