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世界三大料理・トルコの食文化を学んでサバサンドをもっと楽しむ。トルコ料理探求家・岡崎伸也さん考案レシピも

サバは秋にかけて脂がのって身が詰まり始め、もっともおいしい時期を迎えます。塩焼きにして食べても味わい深いサバですが、せっかくの旬には、カフェや惣菜店でおなじみになりつつある「サバサンド」にもご注目。今では日本だけでなく世界の各国で親しまれているサバサンド、その発祥は美食の国・トルコにありました。今回は、あらゆる文化や人が交差するトルコの食文化を、サバサンドから紐解いていきます。

今回、トルコの食文化とサバサンドのレシピを教えてくださるのは、トルコ料理探求家の岡崎伸也さん。本来トルコで食べられているサバサンドは焼いたサバに塩とレモンだけで味付けをするシンプルな料理ですが、今回ご紹介するレシピは、食材やスパイス一つひとつにトルコの食にまつわる岡崎さんの豊かな知識がぎゅっと詰め込まれたオリジナルレシピです。

この記事を読んだ後に、イスタンブールの港町に思い馳せながら作って食べれば、トルコが長い歴史の中で育んでいきた食文化をより感じられるはず。早速、岡崎さんにお話を伺っていきましょう。

登場する人:トルコ料理探求家 岡崎伸也さん
初めての海外渡航先だったトルコに興味を持ち、学生時代に学んだ地理学の視点で6年間かけて全土をまわりながら、各地の地方料理を食べ歩く。現在はトルコ語の通訳をしながら、SNSやメディアなどでトルコ料理の魅力を発信している。9月28日に、トルコ愛が詰まった初の著作『食で巡るトルコ』(阿佐ヶ谷書院)が発売。
X(旧Twitter):https://x.com/Food_trip

岡崎伸也さん

多様な文化がミックスされたトルコの食事情

――トルコ料理は世界三大料理の一つとして有名ですよね。岡崎さんはトルコ全土を巡ってみて、トルコ料理が世界で絶賛される理由をどう感じていますか?

岡崎さん:まず、トルコは陸と海に恵まれた国土があることで肉や魚、農作物まで、豊富な食材を得ることができる国、というのがベースにあります。特に農作物に関しては、地域によって気候が異なることで植物の多様性が見られ、トルコの中だけでさまざまな野菜や果物、野草や香草、米、穀物などが育ちます。たとえば内陸部の広大な土壌では小麦、黒海沿岸部ではとうもろこしなど、地域ごとに多様な農作物が生産されているんです。

岡崎さん:またトルコ料理が評価される大きな理由としては「バラエティの豊かさ」があるでしょう。その背景には、トルコが異国の文化と交流してきた長い歴史が絡んでいます。もともと中央アジアに属していたトルコ民族は、イスラム教徒との出会いを経て、現在の地中海地方へ移りました。オスマン帝国時代にはイスタンブールを征服し、元々いた他民族からの影響を受けたり、さらに領土を広げたりしたことで各地域の食材や調理法などが入ってきます。多種多様なルーツを持つ人々が交流し、あらゆる食文化が融合したことから、トルコ料理は独自に発展していったのです。


――豊富な作物、そして多様な食文化の融合によって、トルコならではの料理が生まれていったのですね。

岡崎さん:この時代にトルコ料理が発展したのではないかと思います。さらに海洋国家として貿易に力を入れたことで、海外からスパイスや食材などが入ってくるようになりました。

特に近代のトルコ料理に大きな影響を与えたのは、トマトやパプリカなどの南米原産の食材。その中でも赤いトマトは19~20世紀にトルコ全土に急速に広がり、トルコの食文化を大きく変えました。甘みや酸味を足す際、今まで使っていたレモンや未熟ぶどうの代わりにトマトを入れるなど、あらゆる料理にトマトが積極的に使われるようになります。たとえば地中海の気候を利用して作られる「サルチャ」と呼ばれるトマトペーストは、現在のトルコ料理を代表する調味料の一つです。


――歴史を知れば知るほど、トルコ料理の魅力が感じられて、その味わいがより気になってきました! 岡崎さんが現地で食べた料理で印象に残っている料理もぜひ教えてください。

岡崎さん:「マントゥ」と呼ばれる水餃子ですね。マントゥは、各地で味や食材、調理方法に違いがあります。水餃子にヨーグルトがたっぷりかかっていて、初めて食べた時は驚きました。トルコ民族は中央アジア時代に遊牧民だったため、その食文化を受け継ぎ、今でも乳製品を多く食べるんですよ。中国から中央アジアの文化である餃子が、遠いトルコでも食べられていることにルーツややロマンを感じます。

イスタンブールの港から世界へ。広く愛されるサバサンド

――今回はトルコ・イスタンブールの名物料理であるサバサンドのレシピをお伺いしますが、そもそもトルコ人にとってサバとはどんな存在なのでしょうか?

岡崎さん:サバはトルコのなかでも沿岸部でよく食べられる身近な魚のひとつです。トルコは基本的には肉食文化なのですが、中央アジアから地中海地方へ移ったことで海が身近になり、カタクチイワシやスズキ、サバなどの海水魚を食べる文化が根付きました。Marianna Yerasimos(マリアンナ・イェラスィモス)著の『500yıllık Osmanlı Mutfağı(500年続くオスマン帝国の料理)』によると、17世紀にはサバのドルマ(詰め物料理)が食べられていたことがわかります。

――トルコの方々はサバをどのように調理して食べるのですか?

岡崎さん:旬の時期には脂がたっぷりのっているのでシンプルに網焼きにして楽しみます。旬を過ぎたら蒸し焼きにしたり産卵後で脂の少ないサバは干物にしたりなど、さまざまな方法で食べられます。

サバサンドは、今ではトルコを象徴する人気料理ですが、もともとは港町の地元民がサバをおいしく食べる方法のひとつとして根付いたものだと思います。トルコは小麦の生産が盛んなことからパン文化が強く、昔から肉や魚などをパンに挟んで食べるんです。サバサンドの発祥は定かではありませんが、私が1996年にトルコに行った時にはすでに港町イスタンブールの小舟で売られていました。イスタンブールはアジア側へ向かうフェリーが頻繁に行き来する場所ですので、船乗りやお客さん相手にこじんまりと販売されていたのかなと想像します。

――はじめて食べたサバサンドはどんな味わいでしたか?

岡崎さん:「パンとサバは合うのか……?」と最初は疑問でした。でもサバに白ご飯が合うように、おいしい魚には炭水化物が合うんです。そして、とにかくトルコのパンはおいしい!現地のサバサンドは、外はパリパリ中がもちもちの「エキメッキ(パンの総称)」に挟まれています。エキメッキでもっともポピュラーなのはバケットタイプのもので、このパン自体のおいしさがあるからサバサンドも人気なのではないかと思います。


岡崎さん:そんな「エキメッキ」のなかに、レタスとオニオンスライス、焼いたサバを挟むのがイスタンブールのスタンダードなスタイル。サバはお店によって焼き方が違っていて、網で香ばしく焼くか、鉄板に油を敷いて揚げ焼きにします。基本的に調味料は使われておらず、食べる時にお客さん自身が塩とレモン水を好きにかけるだけ。おいしいサバとパンがあれば、味付けはこんなにもシンプルでいいのだなぁと思いました。

トルコはおいしい食材を活かす術を知っている

――基本のサバサンドは意外とシンプルな料理なんですね。もっとスパイスが多く使われているのかと思いました。

岡崎さん:トルコではスパイスをいくつも組み合わせて使うというより、シンプルな味付けの料理が主流。たとえばハンバーグに入れるならクミンやブラックペッパーだけ、とスパイスは必要なものだけを厳選して使うことが多いですね。

――食材がおいしい国だからこそ、食材そのものの味を活かすスパイス使いを熟知しているのかもしれないですね。ちなみに一般的な家庭ではどんなスパイスが常備されているのでしょう?

トルコの市街地では週に1度大きな市場が開かれます。市民は街のスーパーマーケットを利用する以外に、この市場で1週間分の食材をまとめ買いするそうです。

岡崎さん:家庭での基本スパイスは、ブラックペッパーと、赤唐辛子を粗挽きにした唐辛子フレークの2種類。唐辛子フレークは辛さを出すのではなく旨味を加えたい時に使います。その他、代表的なスパイスはクミンやシナモン、オールスパイス、クローブ、コリアンダーなどです。スイーツに使うシナモンやクローブはトルコ国内でも幅広い地域で、コリアンダーはジョージア系民族の方々がよく使います。

岡崎さん:ハーブもよく使われますよ。フレッシュハーブを刻んでサラダとして食べたり、魚の付け合わせにイタリアンパセリやルッコラを切らずにそのまま添えたり、メインの食材として使われることもあります。乾燥ハーブの中で特に欠かせないのはタイムやオレガノ。トルコではそれらのハーブは「ケキッキ」と呼ばれ、スープなどによく入れられます。今回ご紹介するサバサンドのレシピでは、タイムを使ってトルコ風にしてみました。タイムを使うと一気に地中海の味わいになるのでおすすめですよ。

――トルコの文化に精通した岡崎さんならではのレシピですね。さっそく作り方を教えてください!

「トルコ風マリネソースの優しいサバサンド」のレシピ

【材料】2人前
サバの切り身……1枚(骨なしで150g程度)
プレーンバケット……半分
レタス……1/2枚程度
紫玉ねぎ……1/4個程度
イタリアンパセリ……適量
レモン……お好みで
ピクルス……お好みで

〈マリネ液〉以下の調味料を混ぜ合わせておく。
S&B タイム……小さじ1/2
S&B パプリカパウダー……小さじ1
S&B コショー……小さじ1/2
塩……小さじ1/4
ヨーグルト……大さじ1/2
ケチャップ……大さじ1/2
レモン汁……大さじ1/2
S&Bおろし生にんにく……少々(2g程度)
オリーブオイル……大さじ1

岡崎さん:現地のサバサンドをベースに、家庭にある食材を使ってトルコ風に楽しめるアレンジレシピを考えました。タイムやヨーグルトを使ったマリネソースにサバを浸し、フライパンで焼き上げます。このマリネソースは「チキン・シシカバブ」にも使われているものです。遊牧民の時代から受け継ぐヨーグルト、地中海地方で広まったトマトやタイム。トルコの食文化をぎゅっと詰め込んだレシピで、トルコを旅する気分を味わってもらえたらうれしいです。

そして、皆さんに一番こだわってほしいのはパン選びです。サバサンドのおいしさは、パンのおいしさが大きく左右します。本場の「エキメッキ」に近いのはバタールという短めのフランスパンですが、もし無ければ太めで柔らかいフランスパンを選ぶとよいでしょう。ぜひお近くのパン屋さんで、理想的なパンを探してみてくださいね。

【1】トルコ風マリネソースを作る

レシピ〈マリネ液〉の材料をよく混ぜ合わせ、オーロラ状にします。

【2】サバを切り、マリネ液につける

キッチンペーパーでサバの表面を拭き、臭みをとります。半分に切ってから、切れ目を2〜3カ所ほど入れます。

バットなどの平らな容器にサバをのせ、あらかじめ混ぜ合わせていたマリネ液をかけてしっかり絡めます。ラップをして、冷蔵庫に1時間程度置き、なじませましょう。

【3】パンに挟む野菜を用意する

スライスした紫玉ねぎと、刻んだイタリアンパセリを混ぜ合わせておきます。レタスは表面をよく洗って、水気をしっかり切ってください。

【4】サバを焼く

フライパンに油(分量外)を敷き、マリネしたサバを両面焼きます。火が通ったら、フライパンから取り出します。

【5】具材をサンドする

プレーンバケットの横から切り込みを入れて、【3】で用意したレタスや玉ねぎ、【4】で焼いたサバを挟みます。ピクルスやくし切りにしたレモンと一緒に皿に盛り付けたら完成。レモンをたっぷり絞って召し上がれ!

歴史を知るとより食を楽しめる

世界三大料理といわれるトルコ料理。その背景にはおいしい食材が多く育つ土壌や、さまざまな食文化が融合してきた長い歴史がありました。その文化や歴史を知れば知るほど、トルコ料理がなぜ注目されるのか、わかったような気がします。

「トルコ全土を巡りあらゆる郷土料理を見たり食べたりする中で、トルコの歴史的背景を知ることができました。文化や地域の境界に位置するトルコだからこそ辿ってきた歴史や土地、気候が生んだ食文化を感じられるのが、トルコ料理の面白いところです」と岡崎さん。

トルコ料理の特徴や歴史を知ると、サバサンドをよりおいしく楽しむことができそうです。今回ご紹介したオリジナルレシピで、美食の国・トルコに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

文:大瀧亜友美
写真提供:岡崎伸也

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