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【レシピあり】スパイス好きなら一度は試したい「アチャール飲み」という大発明!

#スパイスとわたし 」は、スパイスを愛する方に、スパイスの魅力について語っていただく、連載企画です。 スパイスの楽しみ方は十人十色。みなさんが感じるスパイス料理の楽しさをぜひ教えてください!  今回は、「アチャール飲み」が楽しめるインド料理店、ハバチャルの飯塚さんのもとへ伺いました。聞き手は、阿部光平さんです。

インドカレー好きの人とっては馴染み深い料理・アチャール。日本では「インドの漬物」と紹介されることが多く、カレーに添えられている一品というイメージが強いのではないでしょうか。
 
そんなアチャールをメインにした食事とお酒が楽しめるのが、千歳烏山にある『ハバチャル』です。「hub+achar(アチャールの中心)」という意味が込められた店名には、今まで脇役に甘んじることが多かったアチャールを主役にするという強い想いが感じられます。
 
「アチャールをつまみにお酒を飲む」という独自のスタイルは、いかにして生まれたのでしょうか。インド各地の家庭料理に触れ、自由で奥深いアチャールの世界に引き込まれたという店主の飯塚俊太郎さんにお話を伺いました。

登場する人:飯塚俊太郎(いいづかしゅんたろう)
「ハバチャル」店主。1976年、東京生まれ。幼少期のインドネシアでの生活、学生時代の旅行などの影響から、アジアの料理に興味を持つ。インド料理店やタイなどの東南アジア料理店の厨房で働き、2005年都内に無国籍料理店を開業(12年に廃業)。その後数店舗の飲食店勤務を経て17年5月に現店舗を開業し現在に至る。

「アチャールをおつまみにする」というインドにはない発想

——アチャールについて、お店ではどんな料理だと説明していますか?
 
飯塚 お客さんの関心にもよるんですけど、簡単に説明するときには「おつまみです」と答えてますね。興味を持ってくれる方には、「インドでは漬物と認識されているものですが、日本でいう漬物とはかなり違いがあります」と伝えています。
 
——日本の漬物との違いは、どういうところなのでしょう?
 
飯塚 日本人が考える漬物って、基本的には野菜じゃないですか。ところがインドでは、野菜だけでなく、肉や魚、果物、卵なんかもあったりして、食材の幅がものすごく広いんです。味付けについても、塩で漬けるものや油で漬けるもの、シロップ漬けなんかもあります。必ずこれを使わなければいけないという食材や調味料がないので、説明がすごく複雑になっちゃうんですよね。だから、簡単に伝えるときは「おつまみです」と答えています。
 
——アチャールには、この調味料を使わなきゃいけないとか、こういう漬け方をするという決まりがないんですね。
 
飯塚 そうなんですよ。僕も自分で調べたり、人に聞いたりしたんですけど、特に決まりはなくて。例えば、シロップ漬けの甘いアチャールは発酵させていないし、油も入っていないし、酸味もありません。コンポートみたいなものなんですよ。そうかと思えば、単純にレモンを塩漬けにしたものもアチャールと呼ばれます。だから、調べれば調べるほどよくわかんなくなっていくんですよね(笑)。

——日本のインド料理店では、アチャールはカレーの横に添えられていることが多いですよね。インドでは、どういう食べられ方をしているのでしょう?
 
飯塚 そこは同じですね。インドにおけるアチャールは、寿司に対するガリとか、牛丼の紅生姜みたいな立ち位置です。メインに添えられているもので、人によってはなくてもいいものって感じですね。嫌いな人もいますから。
 
——おつまみという捉え方はあるんですか?
 
飯塚 僕は見聞きしたことないですね。インドではあまりお酒を飲む文化がないので。アチャールをおつまみにするのは、インド人からするとまったく理解できない食べ方だと思います。僕が勝手にやってるだけですね(笑)。

この日のおすすめのアチャール。「キウイ」「新生姜」「釜あげシラス」、「砂肝」、「せり」、「ミックスベジ」

——飯塚さんは、今までに何種類くらいアチャールを作ってこられたのでしょうか?
 
飯塚 具体的な数はわからないですけど、50種類以上は作ったと思います。お店で出してるのは定番が4種類で、日替わりのメニューも合わせて常時13、4種類くらいですね。
 
——新しいメニューって、どういう発想で作られているんですか?
 
飯塚 基本的には旬の食材を使って組み合わせを考えています。お店を始めてもうすぐ5年なので、季節ごとのメニューはだいたい決まっているんですよ。昔は新しい素材にチャレンジしてみることもありましたが、最近はそんなに変わったことはしていません。マイナーチェンジはしてますけど。
 
——ハバチャルのアチャールには、温かいものと冷たいものがあるんですね。
 
飯塚 それも僕が勝手にやってんですけどね(笑)。アチャールは基本的に保存食なので、冷たい、もしくは常温が当たり前なんです。だけど、うちでは肉や魚介(砂肝や豚肉、カキなど)のアチャールを温めて出しています。
 
これには理由があって、食感が柔らかい方が美味しいものは低温調理で仕上げているんですよ。それを冷蔵庫に入れておくんですけど、せっかく柔らかくなったものを冷えて硬くなった状態で出すのはもったいないなと思って。なので、一度温めて出しているんですよね。それが邪道だと言われればそうなんですけど、うちはそれでもいいかなって。
 
——アチャールをおつまみとして提供している時点で独自の路線をいってるわけですもんね。
 
飯塚 そうですね。インド料理に対するリスペクトは当然ありますし、スパイスの使い方も非常に参考にしています。だけど、提供している場所が日本で、お客さんの多くが日本人なので、そこは柔軟にやったほうがいいのかなと。僕はあくまで料理人で、研究者ではないので。

レストランでは味わえない、インド家庭料理の衝撃

——飯塚さんがインド料理のお店をやろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

飯塚 大学生のときに就活をしてたんですけど、将来のビジョンがまるでなかったんですね。だから就活にも身が入らず、全然ダメで。じゃあどうしようと考えたときに、なんとなく自分が作ったものを売って生きていくようなことをしたいなと思ってたんです。漠然としすぎなんですけど。

そのときにたまたま身近にあったのが料理だったんですよね。もともと料理が好きで、飲食店でバイトもしていたので。

——では、大学卒業後は料理の道に?

飯塚 はい。何料理をやろうか考えたときに、小さい頃にインドネシアに住んでいたり、学生時代にバックパッカーをしていた影響もあって、エスニック系がいいなと。それでインド料理店を探したんです。当時はインド料理店の厨房で日本人が働けることってほとんどなかったんですけど、なんとかキッチンの調理補助で働けるお店を見つけました。

——実際に働いてみた印象はいかがでしたか?

飯塚:キッチンスタッフは全員がインド人かネパール人だったので、非常にアウェイ感が強かったですね。なので、まずは本を買ってヒンディー語の勉強をするところから始めました。

——えぇー、すごい。言葉を勉強するところからのスタートだったんですね。

飯塚:ヒンディー語はあまりに難しくて2週間くらいで諦めましたけどね(笑)。インド人は英語も話せるので、そっちの勉強に切り替えました。英語と日本語とヒンディー語が飛び交う職場で大変でしたけど、こっちが頑張って話せばいろんなことを教えてもらえる環境で楽しかったですね。

——言葉から勉強しなきゃいけない環境ってかなり大変ですよね。それでもそのお店で働き続けようと思ったのは、やはりインド料理に面白さを感じていたからなのでしょうか?

飯塚 そうですね。とにかく、まかないがすごかったんですよ。そのお店は、ナンやタンドリーチキンを出す北インド系のお店だったんですけど、まかないでは自分たちの好きなものを作っていて。それがいわゆるインドの家庭料理で、めちゃくちゃ美味しかったんです。それでインド料理に魅了されました。強烈でしたね。

——そんなに美味しいのに、お店では出さないんですね。

飯塚 これは僕の個人的な見解なんですけど、インドではレストランで作る料理と家庭で作る料理が、ジャンルとして分かれてるんですよ。だから、家庭料理を商品として売るという感覚はないような気がします。 

飯塚 レストランの料理というのは高級料理という位置付けで、日本からインドへ行くパックツアーなんかで食べるのは、こういう料理ですよね。だから、インドのホテルで食べる料理は日本のインド料理に近いんです。
 
——じゃあ、我々が普段日本で食べているインド料理って、向こうでいう高級料理なんですね。
 
飯塚 どこの国でも同じだと思うんですけど、海外にお店を出そうと思ったら、その国の高級な料理を持っていくじゃないですか。日本料理だったら寿司、すき焼き、天ぷらのお店が海外には多いですよね。そうすると、海外の人たちは日本人はいつも寿司やすき焼きを食べてるんだと勘違いします。それは、僕らが海外の食文化に対して抱くイメージと同じだと思うんですよ。
 
——「インドの人はいつもバターチキンカレーとナンを食べてるんだろうな」みたいな。
 
飯塚 そう、そう。あれは北インドのレストラン料理であって、インドの人がいつも食べてるものではないんですよ。もちろん、外食をすることもあるでしょうけど、基本的にいつも食べているものは日本ではあまり出会う機会のない家庭料理なんですよね。そういうものを食べたいと思ったインド人シェフが作っていたのが、僕が働いてた店のまかないだったんですよ。それが本当に美味しくて。その経験は大きかったですね。

まだ誰もやっていないインド料理店を目指して

——そこから自分のお店を始めるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?
 
飯塚 そのお店で2年ほど働かせてもらってから、インドに行ったんです。いろんな家庭料理を見てみたかったし、あわよくば現地で働けないかなと思って。まぁ、バックパッカー的なノリですよね。結局、お店の厨房に入れてもらうことはできなかったんですけど、居候させてもらった家の人に料理を教わったりしていました。
 
帰国してからは東南アジア系の料理店で働いたり、自分でエスニック料理のお店を出したり、インド料理店の店長をやったりして、今に至るって感じですね。
 
——様々な料理の経験を積んだ上で、アチャールをメインにしたお店をやろうと思った理由は何だったんですか?
 
飯塚 前職でインド料理店の店長をやってたんですよ。そこはインド人でスパイス商をやっている方がオーナーで、2年間限定のお店だったんですよね。なので、2年後のことを考えないといけないじゃないですか。そのときに、インドカレーを作りつつ、自分が次にやるお店のための試行錯誤をしようと思ったんです。

 飯塚 そのお店をやりながら、インド料理のことを調べたり、他のお店へ食べに行ったりして、いろんな試作をしていました。そうして、まだ誰もやっていないインド料理の店を模索しているうちに、アチャールに辿り着いたんです。アチャールをメインにしたインド料理店って、他にはないよなと思って。
 
——ハバチャルのオープンは2017年6月ですが、当時はまだアチャールってメジャーな存在ではなかったですよね。
 
飯塚 そうですね。今でも全然メジャーじゃないですけど(笑)。でも、メジャーじゃないほうがよかったんですよ。ライバルがいてほしくなかったので。
 
——そういう状況でも、お店としてやっていける自信はあったんですか?
 
飯塚 そこまで強い自信は正直なかったですね。まぁ、今でもないですよ。やっぱりガリとか紅生姜みたいな立ち位置の料理なので。
 
日本で海外の料理が広まっていくためには、肉や魚、ご飯、麺のように、メインのメニューじゃなきゃダメなんですよ。タイ料理だったらガパオライスやパッタイ、ベトナム料理だったらフォーとか生春巻きみたいな。インド料理だったら、ビリヤニなんかは、米食の文化がある日本には馴染みやすいですよね。そう考えたときに、アチャールがすごく広まっていく可能性は非常に低いというのは、最初からわかっていました。だけど、他の人と被らないインド料理の店にしたかったんです。

スパイスには「終わりのないパズル」のような楽しさがある

——今回の『スパイスとわたし』という企画では、料理人の方が思うスパイスの面白さについて伺っています。飯塚さんが思う、スパイスの面白さや魅力は、どういったところでしょうか?
 
飯塚 パズルみたいな面白さがありますよね。スパイスの種類って、それなりにたくさんあるじゃないですか。その組み合わせを考えたり、量や配合、入れる順番を変えてみたりすると、料理が変化するんですよ。スパイスをホールのまま使うか、パウダーにして使うのかによっても変わりますしね。その組み合わせが無限なので、終わりのないパズルをやってるような感覚があって。それが面白いなと、僕は思っています。
 
——ひとつの正解を目指すというよりは、無限の組み合わせを楽しむパズルみたいな感覚なんですね。
 
飯塚 常に新しいことを試してるわけではないのですが、日々の仕事のなかでもいろいろと発見があります。だから、興味は尽きないですね。

——スパイスを選ぶ際に、こだわっているポイントはありますか?
 
飯塚 そこまでこだわってはいないですけど、単純に新鮮で香りがあるものを使っています。産地にこだわる方もいらっしゃると思いますけど、僕はどちらかというと「あるもので作る」という考え方なので。「なきゃないでいいや」みたいな。
 
——それはやはり家庭料理に影響を受けたというベースがあるからなんですかね。
 
飯塚 そうかもしれないですね。インド人のシェフも、まかないはあるもので作るんですよ。例えば、タマリンドという酸味のあるマメ科の果物(※)があるんですけど、それがないときに彼らはお酢を使っていました。他にも「本当はこういうの使うけど、ないからこれでやる」みたいなことが多いし、それで立派に美味しいものができるんですよ。そういうのを見ていると、「あるもので作る」って感覚でいいんだなと思いますね。
 
(※)……ドライフルーツ、ジュース、ペースト状の調味料などとしてインドやタイで流通。
 
——それは日本の家庭料理でも一緒ですね。肩肘張らないラフさがあるというか。
 
飯塚 そうですね。結果的に美味しかったらいいじゃんっていうのは一緒だと思います。

——ハバチャルには、スパイスカクテルというドリンクメニューもあるんですね。

飯塚 これはウォッカやラムなどのハードリカーに、スパイスやハーブを漬け込んだお酒です。それをソーダで割ったり、ロックやストレートなど、お好みの飲み方でお出ししています。今あるのは、レモングラスのスパイシーウォッカ、アッサムティーのジンジャーラム、カルダモンのコーヒー焼酎など、全部で5種類ですね。

——どれも美味しそうー! これも発想としては、パズルのように組み合わせを考えていくんですか?

飯塚 そうですね。例えばアッサムティーっていうのは紅茶なんですけど、うちのチャイで使っている茶葉なんですよね。なので、まずはあるものを利用しています。梅酒は毎年漬けていて、せっかくならスパイスも入れてみようと思ったのがきっかけですね。カルダモンコーヒーは中東のほうでよく飲まれているもので、これを焼酎にしたら美味しそうだなと思って作りました。

——飯塚さんが経験してきたことや知識がパズルのように組み合わさってできるのが、ハバチャルのメニューなんですね。

​​飯塚さんご紹介レシピ、「アチャールの素 簡易版」 

今回は飯塚さんに、塩漬けした野菜と混ぜるだけで簡単に「アチャール化」できるという、アチャールの素を教えていただきました。過去にハバチャルで販売していたことがあり、今回ご紹介いただくのは、家庭用に作りやすくアレンジされたものです。

アチャールの素の活用レシピ2品もあわせてご紹介します。

【材料】

マスタードオイル 60g なければサラダ油
S&Bマスタードシード 小さじ2/3
ヒング※ 少々 なければ省略
S&Bおろしにんにく 小さじ1
S&Bおろししょうが 小さじ1
パウダースパイス(パプリカ小さじ2、チリ―ペッパー小さじ1、クミン小さじ1/3、コリアンダー 小さじ1/3) クミンとコリアンダーはなければ省略 

※ヒングについて「料理に独特なコクや深みをプラスする調味料です。入れなくても『料理』は完成しますが、より“現地”感を味わいたい方はマスタードオイルとあわせてお使いください」(飯塚さん)

【作り方】
①厚手の小鍋にマスタードオイル、マスタードシード、ヒングを入れて火にかける(中火)。
②マスタードシードが弾けてきたら火を止め、30秒ほど待ってから(油の温度を下げるため)おろしニンニクとおろしショウガを加えて再び火をつける(弱火)。
③木ベラなどで混ぜながらニンニクとショウガに火を通す。再び火を止める。
④パウダースパイスを加える。木ベラで混ぜながら余熱を利用してパウダースパイスの香りを引き立たせる。粗熱が取れたら、保存容器に移す。

アチャールの素活用レシピ①「レンジで作る蒸しナスのアチャール」

【材料】 

長茄子 2本(290g) 柔らかめのナスであれば他のナスでも可
水 小さじ2
塩 4g〜
酢 小さじ2/3〜
アチャールの素 半量

【作り方】

①ナスのヘタを切り落とし、ピーラーなどで皮を剥く。縦に4等分に切った後2cmほどの厚さに切る。
②耐熱容器に水と①を入れ、ラップをしたのちレンジで加熱する(ナスの色が緑色になるまで調理する/700wで6分ほど)。
③出来上がったナスに塩、酢、アチャールの素を加えて混ぜ合わせる。味見をして足りなければ、塩と酢で好みの味に調整する。
④冷めたら冷蔵庫で保存する。1〜2時間ほど経つと味が馴染む。

アチャールの素活用レシピ②「市販の白菜漬を使った簡単アチャール」

【材料】

市販の白菜漬(水気を絞ったもの)   80g
アチャールの素 半量

【作り方】
①白菜の漬物と冷ましたアチャールの素をボウルに入れ、混ぜ合わせたら出来上がり。1〜2時間ほど経つと味が馴染む。

 これからが旬のナスや市販の白菜漬けを、スパイシーでお酒のすすむ「おつまみ」に大変身させる便利なアチャールの素。

ご自宅でのアチャール飲みにいかがでしょうか? ぜひお試しください!


​​取材・文:阿部光平/撮影:高澤梨緒 /編集:エスビー食品note 

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