スパイス×日本酒の「ペアリング」を楽しもう!プロが教える、日本酒マリアージュを堪能するタイプ別レシピ
冬です。日本酒がおいしい季節になりましたね。
白子ポン酢をつまみに冷酒をちびちび。おでんをつつきながら熱燗をグイッと。「日本人に生まれてきて良かった…」そう思わずにはいられない、至福のひと時ですよね。
日本酒は和食に合わせるお酒というイメージをお持ちの方が多いかと思います。同じ気候風土と歴史、文化の中で育まれてきた日本酒と和食は、間違いなくおいしい組み合わせです。
しかし、最近は日本酒の味わいの幅がグンと広がり、スパイスを使った料理とも相性が良いことをご存知でしょうか??
お酒と料理の相性が良い組み合わせを「ペアリング」と呼び、私は日本酒と発酵食料理のペアリングをテーマにした料理教室を主宰しています。教室では和食に限らず様々な国やジャンルの料理を紹介しており、ペアリングのキーアイテムとしてスパイスを使うことがよくあります。
ペアリングには、例えば味のボリュームを合わせたり、酸味で油っこさをスッキリさせたり、お酒を調味料に見立てたりなど、様々なメソッドやテクニックがありますが、スパイスは特に「香り」の要素に大きく影響を与えます。
おいしさ=味というイメージが強いかもしれませんが、鼻をつまんでご飯を食べてもおいしくないように、ペアリングにおいても香りはとても重要な要素なのです。
そして、一口に「スパイス」と言っても、様々な香りのタイプがあり、日本酒の味わいによって相性の良いスパイスは変わってきます。
今回は、私が様々なスパイスとお酒を合わせてきた経験の中で、特にお気に入りの日本酒とスパイスの組み合わせを、レシピ付きで3パターンご紹介いたします!
熟成タイプ × 五香粉(スパイス鶏大根)
熟成酒はスパイス料理と相性が良いタイプの代表格です。
日本酒は熟成すると紹興酒に似た香りが出てくるため、特に中国系のスパイスとよく合います。
スーパーでも手に入りやすい「剣菱」(剣菱酒造/兵庫県)は、熟成期間1年〜4年の原酒がブレンドされており、熟成酒特有のナッツ系の香りがあります。
このような、どっしり旨口で熟成の風味があるお酒には、「五香粉(ウーシャンフェン)」を合わせるのがオススメです。
五香粉は、八角やシナモンや陳皮などの5種類のスパイスがブレンドされた中国のミックススパイスで、ふんわりと甘く複雑な香りが特徴。肉や魚と相性が良く、炒め物や揚げ物はもちろん、煮込み料理にも使えます。
熟成タイプのお酒に合わせたい、五香粉を使ったレシピをご紹介いたします。
大根は皮を厚めに剥き、2cm厚さの半月切りにします。
余裕があれば面取りをすると煮崩れ防止になりますが、しなくても全然大丈夫です。
ちなみに、大根は煮物向きの上部(葉っぱに近く、青っぽい部分)を使うのがオススメですよ。
続いて、フライパンに油を入れて中火で熱し、手羽元を焼きます。
突然ですが、ここも実はペアリングのポイント。
肉を焼くことで香ばしく色づくのは、糖とアミノ酸のメイラード反応。そして、熟成酒が濃い色をしているのも、同じメイラード反応です。この「メイラード合わせ」をすることで共通の要素を作ると、相性がグッと高まります。
全面にこんがりと焼き色が付いたらペーパータオルで油を拭き取り、水と酒、生姜、大根を入れ、蓋をして弱火で15分煮ます。
大根に竹串がスーッと通ることを確認したら、調味料(A)を加えます。
赤唐辛子は種が辛いので、半分にちぎって種を取り出してから加えましょう。
落とし蓋をして、弱めの中火で15分煮ます。
全体がぐつぐつする程度の火加減にして全体に煮汁を行き渡らせ、同時に水分を飛ばしましょう。
ちなみに、黒酢を使うのもペアリングのポイント。
黒酢は熟成期間が長いため熟成酒に近い風味があり、お酒との共通点となってくれます。また、骨つき肉を煮込む時にお酢を入れると、身離れが良くなり食べやすくなりますよ。
これくらい水分が少なくなったら火からおろします。時間があれば、一度冷まして味をなじませると良いでしょう。
五香粉の甘くスパイシーな香りと黒酢のコク、唐辛子のピリッとした辛味がきいた、異国情緒のある鶏大根です。お酒のおつまみはもちろん、ご飯のおかずにもピッタリですよ!
お酒は熱燗で合わせるのがおすすめです。
温めることで旨味と香りが膨らみ、味しみしみの大根と手羽元にじんわりなじみます。
さあ、剣菱を買いにスーパーへGO!!
…と、一発目からヘビーめなペアリングになってしまいましたが、続いては爽やかな組み合わせです!
新酒うすにごり × 山椒(ホタテとねぎの山椒クリーム煮)
冬は酒造りのシーズンで、11月下旬〜12月頃から新酒が出始めます。
新酒はフレッシュさを生かして火入れ処理していない「生酒」が多く、うっすら固形物が混じった「うすにごり」または「おりがらみ」というタイプが多く出回ります。
そんな新酒のうすにごりに合わせたいスパイスは、ズバリ「山椒」です。
目が覚めるような爽やかな香りの山椒をにごり酒に合わせると、柑橘の清々しい香りが鼻に抜け、にごり酒をスッキリと味わえます(この組み合わせは、日本酒ペアリングの第一人者である千葉麻里絵さんから学びました)。
女性杜氏が醸す「天美 新酒 純米吟醸にごり」(長州酒造/山口県)は、雑味のない綺麗な味わいで、山椒との相性が抜群。
今回は、にごりの「白」に合わせて、クリーミーなレシピに合わせていきます。
鰻の蒲焼きにかけるイメージが強い山椒ですが、意外にもクリーム系の料理にもよく合うのです。少ない材料で作れて、とてもヘルシーな一品ですよ。
ねぎは斜め薄切りにします。青い部分も少し入れると、彩りがよくなるのでおすすめです。
ホタテは小麦粉をまぶしておきましょう。衣になると共に、とろみ付けになります。
フライパンにバターを入れて中火で熱し、ねぎとホタテを炒めます。
ねぎは箸を使って炒め、ホタテは動かさずに両面焼きましょう。
ねぎがしんなりし、ホタテにこんがり焼き色がついたら、 (A)の材料を加えます。
山椒の量はお好みですが、「ミル付き山椒」を使う場合は、30回ほどミルを回すのが目安です。削りたての鮮烈な香りがたまらない!!
沸騰したらよく混ぜながら煮立て、とろみが付いたら火を止めます。
器に盛り、お好みでさらに山椒をふりかけましょう。
豆乳で作ることで軽い食べ心地のクリーム煮に仕上がり、軽やかな日本酒にもよくマッチします。山椒を入れることで、鼻に抜けるスーッとした香りが心地よく、良いおつまみになりますよ。
ホタテとねぎの甘味がお酒の甘味に寄り添うのもポイントです。
みんなが集まるお正月にもぴったりのペアリング。是非お試しください!
さて、最後はミックススパイスの王様「カレー粉」に合わせたい、個性的なお酒です。
甘酸っぱいにごり酒 × カレー粉(エビのパッポンカリー風炒め)
にごり酒はスパイスとの相性が良いものが多く、特にカレーとよく合います。
中でも、乳酸菌飲料のように甘酸っぱい「川鶴 讃岐くらうでぃ」(川鶴酒造/香川県)は、インドカレーやタイカレーとの相性が抜群!
カレーを食べながらラッシーを飲んでいるような、楽しいペアリングが味わえます。
今回は、蟹と卵で作るタイのカレー「プーパッポンカリー」をアレンジし、身近な調味料で作れる、炒めるだけの簡単おつまみをご紹介します。
エビは殻を剥き、爪楊枝で背ワタを取ります。臭みを取るため、塩と片栗粉(分量外)を適量ふりかけてよく揉んで水洗いし、ペーパータオルで水気を拭き取ります。
玉ねぎは5mm幅のくし切りに、ピーマンは1cm幅に切ったら斜め半分に切ります。
玉ねぎは普通の玉ねぎでも大丈夫ですが、パッポンカリーは野菜にそこまで火を通さずシャキッと仕上げるため、生食向きの赤玉ねぎの方がおいしく仕上がります。
ピーマンは、あれば赤と緑の両方を使うとカラフルで彩りが良くなりますよ!
卵は溶きほぐし、(B)を混ぜておきます。
また、調味料(A)も、あらかじめ混ぜておくと調理がスムーズです。
フライパンに油を入れて中火で熱し、エビと玉ねぎ、ピーマンを炒めます。
えびに火が通ったら(A)を加えてさっと炒め、水を加えて全体をザッと混ぜます。
卵液を回しかけて手早く炒め、卵に火が通ったら完成です!
スパイシーなカレー粉とエスニックなナンプラーが香る、ボリューム満点のおつまみ。これまた、ご飯にもよく合いますよ。
讃岐くらうでぃは、元々は香川県丸亀市の郷土料理「骨付鳥」に合うお酒として開発されました。骨付鳥は、にんにくやスパイスで味付けした鶏肉を焼いた料理で、讃岐くらうでぃがスパイスによく合うのも納得ですよね。
ちなみに、普通のにごり酒もこの料理とよく合いますので、お持ちのにごり酒と是非合わせてみてくださいね!
一振りするだけで料理の印象をガラリと変えてくれるスパイスは、ペアリングの世界も広げてくれます。スパイスの魔法を使って、日本酒の世界を冒険してみましょう!
今回のレシピ、文章、撮影:真野遥(発酵料理家・日本酒マリアージュ料理教室主宰)